
動物病院の事業承継(M&A)を進めると、普段の診療現場では聞き慣れない専門用語や法律・会計用語が多数登場します。
この記事では、動物病院M&A現場で頻出する重要用語を厳選し、できるだけわかりやすく解説します。
(定義・内容は2025年11月10日時点の最新実務・公的基準に準拠)
1. 基本用語
事業承継(じぎょうしょうけい)
経営者が引退・退職・死亡などにより、後継者へ病院経営を引き継ぐこと。親族内・従業員・第三者(M&A)など承継先の種類がある。
M&A(エムアンドエー)
Merger and Acquisition(合併と買収)の略。動物病院業界では「第三者承継(売却・買収)」の意味で使われることが多い。
譲渡(じょうと)
経営権・株式・事業の一部または全部を他人・法人に渡すこと。「事業譲渡」「株式譲渡」などの形がある。
売却(ばいきゃく)
経営権・病院運営権を対価を得て第三者に渡すこと。譲渡とほぼ同義だが、一般的に金銭授受が強調される場合に用いられる。
2. スキーム(手法)に関する用語
親族内承継
院長の子や親族が病院経営を引き継ぐこと。
従業員承継
長年勤務したスタッフ・獣医師が新たな院長(経営者)となって引き継ぐこと。
第三者承継(M&A)
親族・従業員以外の法人・個人(他院、企業、投資ファンドなど)へ病院を売却すること。M&A仲介会社がよく使う表現。
株式譲渡
法人化している病院において、株式会社の株式(経営権)を売買して経営を引き継ぐスキーム。会社の資産・負債・契約など全て引き継がれる。
※日本の動物病院の多くは個人事業主のため、株式譲渡は法人化済みの病院のみが対象。個人事業主の場合は「事業譲渡」スキームになります。
事業譲渡
病院運営に必要な資産や契約のみを選んで譲渡する手法。負債や一部契約は引き継がないことも可能。
3. 手続き・調査・評価に関する用語
デューデリジェンス(DD)
Due Diligenceの略。買い手が売り手(病院)の財務・法務・税務・人事・設備・患者データ等を精査・確認する作業。
「財務DD」「法務DD」「人事DD」などジャンル別に分かれる。
基本合意書(LOI/Letter of Intent)
当事者間で承継の基本条件を合意した文書。拘束力の有無はケースバイケースだが、原則この時点で条件が大枠固まる。
最終契約書(SPA/Share Purchase Agreement等)
承継内容・価格・引継ぎ条件等を法的に確定させる契約書。ここで初めて売買が法的に成立。
クロージング
契約締結後、代金支払・名義変更・資産引渡し・従業員の再雇用契約締結など、実際の承継完了手続きを行うプロセス。
バリュエーション
病院の価値(適正価格)を評価・算定する作業。主に「収益還元法」「純資産法」「マーケット法」などが使われる。
4. 法務・雇用・運営に関する用語
競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)
売り手院長・スタッフが一定期間・一定エリアで同業(動物病院等)を開業・勤務しないように定める契約条項。
秘密保持契約(NDA)
Non-Disclosure Agreementの略。承継・交渉過程で知り得た情報の漏洩を防ぐ契約。
引継ぎ資産・残置物
契約で買い手に譲渡される医療機器・什器・在庫・データなど全ての資産。残置物は引渡し時に処分or引継ぎを明記。
カルテ保存義務
獣医師法により診療記録は3年間の保存が法定義務ですが、税務記録の保存期間(7年)や医療過誤訴訟リスクを考慮し、実務上は5~10年間保存することが一般的です。承継時のデータ引継ぎも必須。
雇用承継
スタッフ(獣医師・看護師・受付等)の雇用契約・勤続年数・待遇などを新オーナーが継続すること。
5. 金融・税務に関する用語
譲渡益課税
事業承継(売却)で得た利益に課せられる税金。
譲渡益=譲渡額−(取得費・簿価+諸経費)
※株式譲渡の場合は「取得費(出資額等)」、事業譲渡の場合は「資産の簿価」を用います。
事業承継税制
中小企業庁の特例制度。一定の要件を満たすと、自社株・事業用資産の贈与税・相続税が猶予・免除される。
※特例措置(100%納税猶予)の特例承継計画提出期限は2024年3月末で終了。2025年7月時点で新たに申請する場合は、原則として一般措置(80%納税猶予)の対象となる可能性があるため、必ず税理士に最新の適用可否を確認してください。
仲介手数料
M&A仲介会社・アドバイザーに支払う成功報酬。売却価格の2〜5%が相場。
6. M&A仲介・支援に関する用語
M&A仲介会社
売り手・買い手のマッチング、条件調整、契約支援を行う専門会社。動物病院業界では「日本M&Aセンター」「CINC Capital」「M&A総合研究所」等が有名。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)
売り手または買い手の利益代表として条件交渉やバリュエーション、資料作成を担当するプロフェッショナル。
マッチングサイト
インターネット上でM&A案件の情報を売り手・買い手が検索・交渉できるサービス。
(例:TRANBI、バトンズ、M&Aクラウドなど)
まとめ|専門用語の理解がスムーズな承継につながる
動物病院の事業承継(M&A)には、普段聞き慣れない専門用語が多く登場します。
「よくわからないまま契約していた」「解釈の違いで後から揉めた」――そんなトラブルを防ぐためにも、重要な用語は早めに理解し、わからない点は必ず専門家や仲介会社に確認しましょう。
より深く理解したい場合は、High Adoptionが公開している「動物病院の事業承継(M&A)お役立ち記事」もぜひ参考にしてください。
事業承継やM&Aの流れや用語、専門家との付き合い方などで迷ったら、High Adoptionの「動物病院事業承継支援」までお気軽にご相談ください。
事業承継(M&A)支援
【参考・出典】