
動物病院の事業承継(M&A)のメリットデメリットを解説!相場から事例まで紹介
2025年8月7日
益田ペットクリニックは、島根県益田市にある地域密着型の動物病院です。松本泰和院長は、家畜保健所から動物愛護の観点で臨床医に転身し、広島での経験を経て開業。”町中華”のような病院を目指した、「フレンドリーなかかりつけ医」として、多くの飼い主に信頼されています。
2024年、65歳を迎えた松本院長は、後継者不在の課題に直面し、High Adoptionの支援を受けて事業承継を決断。動物愛護の理念を共有する譲受企業との出会いを経て、今も院長として地域医療の発展に尽力しています。
今回は、松本院長にこれまでの歩みや事業承継に至る背景、そしてこれからの夢についてお話を伺いました。
松本: 最初は、公務員として家畜保健所に入所しました。しかし、当時は動物愛護の観点が無く、野犬や野良猫を保護して殺処分するような時代でした。それが嫌で、家畜保健所を退所しました。その後、2年間広島の病院で代診として経験を積んだのち、自分で開業をしました。
最初は、別の場所で開業しましたが、いつか地元の益田市で動物病院を運営したいと思っていて、2002年に今の場所が良い条件で空いたので、移転を決めました。当初は、ペットショップを併設していて、当時は、熱帯魚ブームということもあり、熱帯魚も多く取り扱っていましたね。そこから10年後くらいに熱帯魚ブームが去って、ショップの方はあまり売れなくなった一方で、動物病院が忙しくなったため、今のように動物病院メインになりました。
インタビュアー: ペットショップを併設されていたんですか。珍しいですね!
松本: 近くにペットショップがあったのですが、そこが閉店してしまって。病院の大家さんから、ペットショップもやってくれないかとお願いされて始めました。当時は、熱帯魚ブームということもあったので、ペットショップをやってみるのもいいかなと思い、既にショップ運営をしていた知人にノウハウを共有してもらい、共同経営しながらやっていましたね。また、当時は、ペットショップやブリーダーと動物病院が仲の悪いイメージがあり、それが嫌で自分でやってしまおうと思い、ペットショップ併設の動物病院を経営した部分もあります。
インタビュアー: 病院の特徴はどんなところですか?
松本: フレンドリーなかかりつけ医ですかね。例えると、「町中華のような病院」を目指していました。高級中華料理店みたいに、門構えがすごくて、中で誰が何しているかわからないと緊張するじゃないですか。町中華みたいに、外からパッと見えやすく、気軽に入りやすい病院になればいいなと思い、そのようなスタイルでやってきました。
佐藤: 資金繰りが大変でしたね。ある程度の規模になると色々な設備が必要になるから、定期的に機器の入替が必要でした。一方で、機器を入れたとしても、都市部で2~30万円取れる手術が、地方の平均単価は10万円程度で、回収するのに時間がかかる。また繁忙期は良いですが、閑散期は繁忙期の半分くらいの売上になってしまうときもあり、そのような時に予測しない支出が出たりするので、自分で管理するのが難しかったなあと感じています。
松本: 一番は自分の年齢ですね。65歳を過ぎ、新たな子犬・子猫を診ても、その子が命を全うするまでを看取る自信が無くなってきてしまい、事業承継を考え始めました。
後継者が院内におらず、普段の業務をしながら自分で後継者を探すのはかなりハードルが高くなかなか取り組めずにいました。しかし、「益田ペットクリニック」を残したいと思い、第三者承継の道を決意しました。
松本: 第一印象で、担当の森本さんが真面目で信頼できると思ったからです。2024年10月に大阪で開催した動物臨床医学会の出展ブースでご挨拶頂いてから、連絡を頂くのが一番早くて、その後のレスポンスも早かったですね。
他にも3社程、ホームページで問い合わせたり、担当が来てお話を聞いたりしました。中には、元ブリーダーの人なんかもいたりしましたが、動物病院の業界や経営については、あまり詳しくなく、森本さんが一番理解していた印象です。
また、目安額の評価についても、森本さんは、細かい点まで分析してくれて、満足できる評価内容を提示してくれました。担当者の人柄・スピード・業界に対する知見等から判断してHigh Adoptionへ依頼することを決めました。
松本: 最初は、「印象は悪くないな」というくらいでしたが、動物愛護への活動を非常に大切にされている方々で、理念の面では共感できるところが多かったです。また、最初に面談した後に一緒に焼き鳥屋へ飲みにいきまして、かなり盛り上がってしまって(笑)。それがとても良かったです。
お相手の考えとか、やっている活動とか、ぶっちゃけた話を聞いて、自身や、病院のスタイルと合っていると思って、良い印象を持ちました。これからは、一緒に地方の獣医療を守っていくことになりますが、社会的な意義がとても大きいと感じています。
松本: 元々、事業承継を検討していることを伝えていたから、そこまでびっくりはされなかったです。従業員には、「一人で経営していると後継者が決まらないから、しっかりした企業に譲渡する予定です」と説明して、理解してもらえました。
松本: スタッフのみんなは、しっかりしたお相手が経営に回ってくれたし、福利厚生など融通も色々利かせてくれて待遇面が良くなったので、ウキウキと働き始めましたね!他に仕事の面で変わることは殆どないですね。来てくれている患者さんにも、事業承継したことを伝えましたが、病院が続いていくことに安心してくれている印象です。
継承先からも方針を全く変えられておらず、仕入や支払関係を徐々に移行してもらっているくらいです。承継先からは積極的に交流を図ってくれており、この間は承継先の会社の納会にも参加しました。今度は、マネージャーの方を招いて焼肉に行く予定です!
松本: 自分が元気なうちに後継者が決まってほしいですね。もし2人くらい後継者が来てくれた場合は、浜田市や隣の江津市には動物病院が殆ど無く、その地域の飼い主さんたちが困っていると思うのでグループの一員として新たな診療施設を作ってみたいなと思っています。
松本: 全く不安はなかったです。良いお相手を見つけてきていただいて、満足のいく条件で交渉をまとめていただいて、とても感謝をしています。
担当が森本さんで良かったなと思っています。
松本: むやみに色んな仲介会社に声かけない方が良いと思いましたね。うちは3社に相談しましたが、どこと、どんな話をしたのか途中でわからなくなりました。信用のおける担当者に任せ、進捗を整理してもらいながら進めていくのが良いと思います。また、仲介会社を選ぶときは、業界の知見をしっかり持っているか、どんな流れで評価をしているのかをしっかり見た方が良いと思います。
事業承継を考えるタイミングについては、病院を残すことを大事にするのなら、引退する直前で事業承継に動くのではなく、引退まで数年(2~3年)の猶予は残して動き始めた方が良いですね。
実際、承継する時の条件は、殆ど手残りが無いものだと思っていましたが、自分が数年残る点をしっかり評価してもらえたので想像以上に良い条件で承継できました。今だと、「引退する時に事業承継をする」のが一般的に認知されている内容だと思いますが、自分が少し残って、その間に採用を進めてもらい、後任者にじっくり承継をしていく方がトラブルやリスクがないと思います。
インタビュアー: ありがとうございました!
島根県益田市に根ざし、“町中華”のような親しみやすさを大切にする動物病院。 動物愛護の理念を掲げ、地域のかかりつけ医として信頼を集める。