
[譲渡側:にしき動物病院 院長 西木 千絵氏]
にしき動物病院は東京都八王子市にある地域密着型の動物病院です。西木千絵院長は、丁寧な診察で多くのファンを掴み、また「女性スタッフが働きやすい病院」を目指し経営をしてきました。
[譲受側:山下 諒氏]
山下諒氏は東京都内の複数の動物病院で勤務し、1次診療~2次診療、夜間・救急診療を経験し外科・腫瘍科を得意とする先生です。臨床歴が9年目のタイミングで個人開業を決意しました。
開業30周年を迎えたにしき動物病院の西木先生は、後継者不在と年齢による自身の引退を見据え、High Adoptionの支援により事業承継を決断。同時期に承継による開業を希望されていた山下先生とご縁が繋がり、にしき動物病院の事業承継を実施。病院名を変更し、「多摩・大塚どうぶつ病院」として2025年9月にリニューアルオープンしました。
今回は、西木先生と山下先生のこれまでの歩みや事業承継にいたる背景、そして事業承継後の状況についてお話を伺いました。
西木先生のこれまでのご経歴や、「にしき動物病院」の創業からの沿革や特徴を教えて下さい。
西木: 日本大学大学院獣医学研究科を卒業後、東京・神奈川の複数の病院で勤務医をしながら動物看護師の専門学校でも講師として看護師育成に携わっていました。当時、女性の獣医師は少なく、勤務時間も長かった為、「育児や家事を担う女性獣医師は働きづらい」環境でした。私が勤めていた病院も勤務時間が長く、1日100件位外来があり人気のある忙しい病院でした。
そんな時に、娘を妊娠し、当時は時短勤務等という制度もなく、この環境で家事育児をしながら勤務医を続けることは到底難しいと感じ、開業を考え始めました。
インタビュアー: 育児が落ち着いてからキャリアを考える方が多い気がしますが、どんな経緯だったのでしょうか?
西木:
私の場合、妊娠が発覚しても急な退職で迷惑をかけられないと思いましたし、悪阻時等には院長の理解もあって何とか妊娠 8ヶ月頃まで勤めさせていただきました。退職・出産後、獣医師として開業するには長いブランクはリスクが大きいと、産後6か月目には開業に向けて動き出しました。正直この頃が一番精神的にも体力的にもきつかったのですが、「私自身で女性獣医師が働きやすい病院を作ろう」という強い意志で何とか乗り越えました。
開業後は、1次診療施設として、しっかりと患者さんと向き合い診察することを一番に心がけながら、診察・手術は出来る限りスタッフの勤務時間の中で終わらせ、働く環境をより良いものにして健康的な生活を過ごしてもらえるように意識をしました。当時は男性が家事育児にあまり協力的でなく、働く女性の大変さは身をもって理解していましたから、「女性獣医師・看護師が働きやすい」病院を目指しました。
西木先生がこれまで医院経営で、特に苦労されたことがあれば教えてください。
西木: 子育てをしながらの病院経営はとにかく大変でした。夫が単身赴任で不在の時期があり、そんな時に子供が体調不良になったりすると保育園からも帰宅させられ診察も子供の看病も何もかも私一人にかかってしまいます。息子が発熱・嘔吐で苦しんでいる中、夜間診察希望の電話が入り事情を話して他院を紹介しようとしたら「こっちだって具合が悪いのに遠くまで行かれるか」と怒鳴られた事もありました。“吐き気が来たら洗面器に下向きに顔を向けて”と6歳の娘に3歳の息子の面倒を託し夜間診療に向かいましたが、自宅に帰るまで気が気ではありませんでした。自分の時間等は全く無く、育児と仕事の両立は大変でした。
西木先生が今回、事業承継を検討されたきっかけを教えてください。
西木: 以前から、65歳くらいを目途に引退し、自分の時間も持ちたいと思っていました。その上自分自身も医師から入院を要する手術を勧められていましたが、2週間も病院を休む訳にはいかないと1年以上延期しておりました。そこで今まで付いて来てくれた患者様・スタッフに迷惑を掛けないようにと事業承継の選択肢を考え始めました。
獣医師になった娘に引き継ぐことができれば良かったのですが、かねてから娘の希望だった水族館への就職が叶い、本人のやりたかった道が開けたところでもあったので、第三者への承継を選びました。
山下先生のこれまでのご経歴や、得意とされている領域等を教えてください。
山下: 僕は北海道の高校卒業後、日本獣医生命科学大学で学び、卒業後は都内の1次診療病院へ就職しました。その後、腫瘍科をより深く学びたい想いから、勤務医として働く傍ら、日本獣医生命大学付属動物医療センターの腫瘍科専科研究生となりその後同病院の全科研修医を前後期ともに終了しています。
その後、都内の1.5次診療施設(高度医療センター)や、複数の病院でのスポットで代診勤務、救急病院(2次診療施設)での勤務を経験しました。得意な科目は外科と腫瘍科ですね。
山下先生が勤務医から独立開業を志したきっかけや時期を教えてください。
きっかけは2つあります。
1つ目は結婚をしたタイミングで、将来のことをイメージしたことがきっかけです。
自分が65歳くらいまで働くと考えた時、「臨床医としてパフォーマンスを維持できるのは、何歳までだろう」と考えたら、得意な外科をメインにやっていくとなると、目の見え方など万全に働けるのは、実際4~50歳代が限界だと感じました。
開業医であれば、50歳を過ぎてからは、自分は経営を主軸に担当し、現場は勤務医に任せるという選択肢も生まれるので、勤務医としてずっと働くイメージがつきませんでした。一方で家族を養わなければいけないですし、自分に何かあった時に家族に何か残しておけるものが無いといけないと思い、自分で病院を経営すれば、その病院は資産になると考えました。
自分に万が一のことがあっても、病院を妻やもし子供ができれば子供に譲ることで、保険のように繋いでいけるのではないかと考えたのが一つ目の理由です。
2つ目は、やはり自身の考えで経営をしていきたいと感じたことです。
私が過去に努めてきた病院も、もちろん素晴らしい組織でしたが、経営側と臨床現場側で意見の衝突が生まれることもありました。
病院組織が大きい程、意見を擦り合わせるには時間を要します。そのような経験から自分の理想とする病院を最短で実現していくためには、自分自身がトップに立つことが必要だと感じました。動物や飼い主様だけでなく、従業員にも優しい組織を目指したいと考えています。
山下先生は当初どのような病院を探されていたのか(エリア・規模等)、また今回にしき動物病院の譲受を決断された経緯を教えてください。
山下: エリアとしては、自身が東京でずっと働いていたことともあり「1都3県で、かつ妻の職場へも通いやすい所」で探していました。予算については、開業する為には銀行の融資が必要になりますので、無理なく融資を受けられるのが想定される「1次病院で売上3,000万円~4,000万円程度」の病院を想定しておりました。
にしき動物病院はエリア・規模間も合致しており、開業後30年経っている割にとても綺麗にされており、西木先生とスタッフの人柄の良さに惹かれて承継を決意しました。
両者お会いした時や、病院見学の時の印象はいかがでしたか?
山下:
先程申し上げた通り、30年間経営しているのに、とても清潔に保たれているなという印象を受けました。これまで承継物件を探す中で色々な病院を見学させて頂きましたが、その中で一番病院の雰囲気も明るく、若輩者の私に対しても、親切丁寧に接してくれました。
院内設備は年季が入っているものも多いですが綺麗に手入れされ物持ちも良いので、これまで大切に運営されてきたのだろうなと感じました。
西木: そうですね。私は従業員に対して最初に「汚い環境だと病気は治らない」ということをずっと言い続けてきましたので、汚れたらすぐに清掃するように指導をしていました。
山下: 素晴らしいですね。お話するなかで、患者さんやその家族を大切にする姿勢にも感銘を受けていました。
インタビュアー: 西木先生は、山下先生へのご印象はいかがでした?
西木: 実は最初にお会いした時から、「この先生なら大丈夫」と感じました。やはり自分が今まで何より大切にしてきた患者様やスタッフをお任せするにあたり、「この先生なら」と思えなければお譲りすることはできないと思っていました。
私も30年間色々な人を見ながら診察や病院経営をしてきたので、山下先生にお会いした時のこの直感は間違いないと思います。
山下: ありがとうございます!!(笑)
(西木先生)従業員様に承継の事を正式にお伝えしたときはどのような反応でしたか?
西木: 前からスタッフには、引退を考えていることは伝えていて、スタッフからは「ちゃんと次の後任を見つけてくださいね!」とは言われていたので、特に変わったリアクションはなく、安心してもらえたと思います。
むしろスタッフの中にも、ずっとここで働きたいと言う人もいて、「早く次の人見つけてください!」と急かされていたくらいでしたので。
(山下先生)承継後約3ヵ月が経過します。経営に関してや従業員様とのコミュニケーションで意識されていることはございますか?
山下: 引継ぎの時に、前もって雇用条件や営業方針について、西木先生に協力してもらい、従業員にアンケートを取らせて頂きました。自分が想定していた方針と、従業員が望む方針に少しギャップがあったので、従業員とよく話し合い、従業員の考えを尊重することを意識しました。
この話し合いで気付いたことは、待遇面よりも働きやすさを大切にされていることがわかり、承継時には分からなかった新たな気づきがありました。
High Adoption並びに担当者の事業承継支援はいかがでしたか?
西木: 承継が決まるまでには何人もの先生とお会いしなければならないと覚悟しておりましたが、こんなに早く理想の先生が見つかり、森本さんには感謝しております。
私の承継相手に対する希望をじっくり聞いてくださり、難しいと思える事案もご理解いただいて対応していただけました。本当にありがとうございました。
山下: 担当の森本さんには最初から丁寧親切に対応していただき、本当に感謝しています。
融資の段取りや、前院長との交渉がスムーズにいったのは、担当者の手腕によるところが大きいと思っています。
今後病院の事業承継・承継開業を考える方々へ、経験者としてアドバイスをお願い致します。
西木: 病院の院長としての重圧はとても大きく、そして私においては子育てをしながらでもあり、それを長年続けてきたことは、やりがいを感じながらも本当にきつかったです。これから開業を目指す先生方には強い意志を持って臨んでほしいと思います。
また私は事業承継を考えた時、まず承継後の先生が収入を維持していかれることを第一に考えて、引き渡しまでペースを落とさずに病院運営を行いました。「自分は辞めるからよし」ではなく、引き継いで下さる先生が譲り受けてよかったと思っていただけるように承継日まで病院運営を繋いでいくことが大事だと考えます。
私は承継後の現在、週2回一緒に働かせていただいています。診療方針や経営の決定権は新院長にありますが、スタッフや患者様が不安を感じないよう引き継いでいければ幸いです。
山下: 交渉から、承継・開業準備には想像以上に時間を要する為、期間に余裕を持ち準備することが望ましいと思います。
また、院内の体制を大きく変える場合は、繁忙期までに開業しておきたい気持ちもわかりますが、繁忙期を避けた方が、承継・開業準備、診療にも余裕が生まれて、良い側面もあると思います。また、前院長との引継ぎ期間を十分に設けることで患者さんの不安軽減にもつながり、良いと思います。
インタビュアー: ありがとうございました!
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