近年、日本の動物医療業界は大きな転換期を迎えています。ペットの高齢化や多種化、高度医療技術の普及、働き方改革、飼い主の意識変化など、外部環境が急速に変化しており、従来の個人経営モデルが通用しづらくなっています。
さらに、企業グループや外資ファンドの参入も加速し、動物病院の経営スタイルや選択肢は多様化しています。
なぜ今、「事業承継」が院長の選択肢となるのか
院長の年齢構成と後継者問題
動物病院の開業院長の平均年齢は近年上昇し、60歳以上が全体の3割超という調査結果もあります（2023年、動物医療業界各種団体調査等）。一方で、後継者となる親族や勤務医が見つからず、「誰にも継がれずに廃業せざるを得ない」ケースが全国で増加しています。
結果として、事業承継や第三者承継（M&A）の相談件数はこの5年で急増しており、今や院長にとって“事業承継”は珍しい選択肢ではなくなっています。
事業承継＝院長だけでなく家族やスタッフの未来
事業承継は、院長個人の問題だけにとどまりません。スタッフの雇用やキャリア、飼い主様の安心、院長ご自身のご家族の生活・相続など、関わる全員の将来に影響します。
「病院の存続」や「大切な場所を守る」ためにも、事業承継を前向きに検討する動きが加速しています。
動物病院の存続を考える——「事業承継」は最善の手か？
廃業・閉院を避けるための選択
少子高齢化やペットの数の減少、経営者の高齢化などを背景に、動物病院の廃業数も増加傾向です。厚労省や業界紙によると、実際に全国の動物病院の廃業率は年々上昇しています。
一方、「事業承継」を選択した院では、病院の看板やサービス、スタッフ雇用が維持されている例が多く、廃業よりも「承継による存続」を選ぶ院長が増えています。
地域医療と飼い主への責任
動物病院は単なるビジネスではなく、地域の飼い主やペットたちの“命綱”でもあります。突然の廃業は、ペットや飼い主、地域のペット文化に大きな影響を及ぼします。
事業承継によって医療サービスの継続性を確保することは、地域社会への責任ある選択と言えるでしょう。
スタッフの雇用維持と治療の継続のために
事業承継を選ぶことで、スタッフの雇用やキャリアパスも守ることができます。さらに、通院中のペット・飼い主様も安心して診療を続けられるため、院長自身がいなくなった後も「地域に愛される病院」を維持できるのが大きなメリットです。
事業拡大・発展のための事業承継という選択
法人化・事業承継(M&A)による成長戦略
事業承継は“守り”の選択肢だけではありません。近年は法人化や第三者への事業承継(M&A)を活用した事業拡大や多店舗展開を狙うケースも急増しています。
複数の病院をまとめて経営したり、企業グループ傘下に入ることで設備投資・人材育成・高度医療への対応など、個人経営だけでは実現が難しい成長戦略を描く院長も増えています。
企業グループ参画のメリット・デメリット
企業グループ傘下に入ることで、資金調達の容易さ・業務効率化・先進設備の導入・福利厚生の充実など多くのメリットが得られます。一方で、診療方針や院内文化の変化、意思決定のスピード感、雇用条件の調整など「自由度の低下」を感じる場合もあり、事前の十分な比較検討が不可欠です。
新しい経営体制の可能性と課題
第三者承継後は、新経営者・マネージャーや法人本部との連携・分業体制が基本となります。
経営体制の変化にスタッフや飼い主様が順応できるよう、段階的な引継ぎや院長の残留・サポート期間の設定など、“現場に配慮した承継”が求められます。
院長自身のセカンドライフ設計と事業承継
退職金・現金化・安定した引退の実現
動物病院の承継は、院長自身の「安心した引退」や「老後の安定」も大きな動機となっています。
病院売却によるまとまった資金の獲得＝退職金や生活資金として活用でき、年金以外の“第二の収入源”として週1～2日だけ継続勤務する例もあります。
承継後の生きがい・新しいチャレンジ
院長業を離れても、「後進指導」「専門分野での新規開業」「趣味・地域活動」など、セカンドキャリアに踏み出す院長が増加中です。
特に近年は、病院経営ノウハウを活かしコンサルタントや講演活動に携わる元院長も多くみられます。
院長OBとして地域や後継者を支える道
承継後も一定期間は「アドバイザー」や「非常勤勤務」として病院や地域に貢献し続ける選択も可能です。後継者や若手獣医師に経験を伝えることで、「院長としての人生」の集大成となるケースも少なくありません。
事業承継の進め方と注意点
どんな選択肢がある？（親族内承継/従業員・勤務医への承継/第三者への承継（M&A等））
動物病院の事業承継には、「親族内承継（家族）」・「従業員・勤務医への承継」・「第三者への事業承継(M&A)」の3パターンがあります。
近年は親族外への第三者承継の割合が増えており、院の経営方針やスタッフ状況、地域ニーズにあわせて最適な方法を選ぶことが重要です。
準備から実行までの流れ
- 事業承継の目的・譲渡方針を整理
- 家族・関係者・専門家への相談・情報共有
- 承継スキーム（方法）や相手候補の選定
- 条件交渉・基本合意・デューデリジェンス（調査）
- 最終契約・経営権の引継ぎ
- 承継後のフォローや患者・スタッフのケア
よくあるトラブルとその回避策
- 丁寧な説明がなく理解を得られていないことでスタッフ・飼い主様が動揺
- 契約内容の不備や税務・法務のミス
- 承継後の経営方針のミスマッチ
これらは、初期段階からの専門家活用・十分なコミュニケーション・段階的な引継ぎ期間の確保で多くが未然に防げます。
事業承継を成功させるために——院長が今からできること
承継準備チェックリスト
- 病院経営データ・財務状況の整理
- 家族・スタッフへの承継意向の確認
- 自院の強み・課題・市場ニーズの洗い出し
- 必要な専門家（税理士・弁護士・M&A仲介）のリストアップ
- 承継までの目標スケジュール作成
専門家の活用方法
事業承継やM&Aの経験がない院長でも、M&A仲介会社・税理士・弁護士など専門家のサポートを受けることで、複雑な手続きや交渉も安心して進められます。
特に補助金や税制優遇の活用は専門知識が必要なため、早めの相談がカギです。
先輩院長の体験談・事例に学ぶ
実際に事業承継を経験した院長の体験談や失敗談、成功事例は、これから検討する方にとって最大のヒントとなります。承継の経緯・準備のコツ・予想外のトラブルとその解決法など、リアルな声を集めて学ぶこともおすすめです。
まとめ：動物病院と院長の未来を守るために
事業承継は、病院経営者の人生の転機であると同時に、スタッフや患者、そして地域社会にとっても重要な岐路です。
病院の存続・発展、院長自身のセカンドキャリアや安心した引退の実現――
そのためには、今できる準備と行動が何より大切です。
High Adoptionでは、動物病院専門の事業承継(M&A)支援から、補助金活用やセカンドキャリア設計まで、院長・ご家族・スタッフ・患者さんの未来に寄り添ったワンストップ支援をご提供しています。
「今はまだ考え始めたばかり」「まずは情報収集から」という段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。
